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トリプトファン

トリプトファン(Trp)は9つの必須アミノ酸の1つで、毎日の食生活の中で摂取しなければなりません。成人男性のトリプトファンの所要量は4.0mg/kg(体重)です。1970年代以降、トリプトファンが神経終末による神経伝達物質セロトニンの形成速度に影響し、またメラトニンの前駆物質でもあることが発見されたため、トリプトファンを摂取して精神的ストレスを軽減したり、睡眠を改善するアイディアが取り入れられています。脳内トリプトファンはトリプトファン及び炭水化物の血漿内供給に共依存しています(Fernstrom, 1983 & 1991)。反対に他の大型の中性アミノ酸(LNAA:チロシン、フェニルアラニン、ロイシン、イソロイシン、バリン)の血中循環濃度の影響を受けており、トリプトファンの生成は栄養的側面に依存しています。食事によるトリプトファンの供給が不足すると、急速かつ深刻な脳内セロトニンの活性低下をもたらします。トリプトファンが不足すると、季節性情動障害、不安症、炭水化物渇望、月経前症候群および日々のストレスへの対処能力を悪化させます(Blokland et al.,2002)。
 
トリプトファン欠乏モデルのヒトへの応用では、トリプトファン欠乏の否定的な結果がセロトニン欠乏により生じているだけでなく、主としてモノアミン作動系間の複雑な相互作用により生じていることが示唆されています(Reilly et al., 1997; Van der Does, 2001; Delgado, 2000)。しかし、トリプトファンの補助食品への使用に関しては依然として見解の一致をみていません。比較臨床試験では、トリプトファン栄養補助食品を単独あるいは炭水化物と組み合わせて摂取すると、ストレスの状態を緩和し(Maes et al., 1999)、比較的軽度の認知力低下を軽減することが示されています(Markus et al.,2002)。
 
さらに、トリプトファンにはビタミンB3の生産に不可欠であり、また、変換酵素の生産にはビタミンB6、亜鉛、ビタミンCが必要です。比較臨床試験では、トリプトファンまたは5-ヒドロキシトリプタミン(トリプトファンを分解する際にセロトニンへの変換過程で生じる半生成物)が子供の過活動児童症を抑制するのに役立つことが示唆されています(Rucklidge et al.,2009)。
 
残念なことに、21年前に突如発生した好酸球増加筋肉痛症候群(EMS)の集団発生により、人体による研究は下火になりました。これは、ある企業が単独で製造した処方箋不要のトリプトファン製剤と関係があり、その最も考えられる原因が当該企業の不十分な品質管理により生じた不純物であるとされています。そのため、トリプトファンは米国や英国では2005年まで販売禁止になりました。
 
現在ICAASでは、将来的に上記の疾病を防ぐ品質管理手法の改善に集中的に取り組んでおり、また有効な可能性のあるアミノ酸を消費者に提供できるように注力しています。さらに、トリプトファンの許容上限摂取量の設定に役立つ動物およびヒトの研究モデルの双方をサポートしています。
 
最後に、鶏やブタの主飼料がとうもろこしの場合は、トリプトファンが不足する傾向があります。したがって、トウモロコシ飼料にトリプトファンを加えて栄養価を高めると畜産の生産性が向上します。
参考文献
  1. Blokland, A., Lieben, C. & Deutz, N. E. (2002). Anxiogenic and depressive-like effects, but no cognitive deficits, after repeated moderate tryptophan depletion in the rat. Journal of Psychopharmacology, 16, 39-49.
  2. Delgado, P. L. (2000) Depression: the case for a monoamine deficiency. Journal of Clinical Psychiatry, 61, 7-11.
  3. Fernstrom, J. D. (1991). Effects of the diet and other metabolic phenomena on brain tryptophan uptake and serotonin synthesis. Advances in Experimental Medicine and Biology, 294, 369-76.
  4. Fernstrom, J. D. (1983). Role of precursos availability in control of monoamine biosynthesis in brain. Physiological Reviews, 63, 484-486.
  5. Maes, M., Lin, A. H., Verkerk, R., Delmeire, L., Van Gastel, A., Van der Planken, M. & Scharpe, S. (1999). Serotonergic and noradrenergic markers of post-traumatic stress disorder with and without major depression. Neuropsychopharmacology, 20, 188-97.
  6. Markus, C. R., Olivier, B. & de Haan, E. H. F. (2002). Whey protein rich in lactalbumine increases the ration of plasma tryptophan to the sum of the other large neutral amino acids and improves cognitive performance in stress-vulnerable subjects. American Journal of Clinical Nutrition, 75, 1051-1056
  7. Reilly, J. G., MCTavish, S. F. & Young, A. H. (1997). Rapid depletion of plasma tryptophan: a review of studies and experimental methodology. Journal of Psychopharmacology, 11, 381-392.
  8. Rucklidge, J. J., Johnstone, J., Kaplan, B. J. (2009). Nutrient supplementation approaches in the treatment of ADHD. Expert. Rev. Neurother. 9, 461-76.
  9. Van der Does, A. J. (2001). The effect of tryptophan depletion on mood and psychiatric symptoms. Journal of Affective Disorders, 64, 107-119.